2019-09

2019・9・4(水)西脇義訓指揮デア・リング東京オーケストラ

       東京オペラシティ コンサートホール  7時

 最近話題になっている、ユニークな楽器配置でユニークな響きを出すオーケストラ、「デア・リング」の生演奏を初めて聴く。これは公演としては第2回にあたるものだそうだ。

 このオケの主宰者であり、指揮者である西脇義訓さんとの付き合いはもう40年以上、彼がフィリップス・レコードのスタッフだった時からだ。温かい、穏やかな感じの人柄が、今でも私たちを惹きつける。
 彼の企画力は当時から抜群で、特に後年には奇抜なアイディアにも長け、「きんさん・ぎんさんのクラシック」(メイン曲がレハールの「金と銀」)というCDとか、「小澤幹雄のやわらかクラシック」(小澤征爾の録音集)というCDなども制作したこともある(後者は私が構成選曲をやらせてもらったものだが)。
 その彼が、バイロイト祝祭劇場の特殊なオーケストラ配置をヒントにして「デア・リング」なるオケを創設したと聞いた時には、ついに豪いことをやり出した、と舌を巻いたものだ。

 今日の演奏会のプログラムは、シューベルトの「未完成交響曲」と、ブルックナーの「第7交響曲」だった。
 「未完成」での楽器配置は、ステージ前面に、各々円形になった弦楽五重奏のグループを4つ並べ、その各々中央に木管の1番奏者たちを配置、而してそれらのグループの背後に2番奏者たち及び金管群を各々分散して配置する、という具合である。

 つまり、各セクションの奏者たち、あるいは1番・2番奏者は、舞台上にバラバラに━━といってももちろん西脇の考えに基づく一定の法則はあるのだろうが━━配置されるため、たとえばフルートやオーボエは舞台のあちこちから聞こえて来る、という仕組になるわけだ。
 プレイヤーの中には、配置の関係で、指揮者に背を向けた姿勢のまま演奏する、という奏者もいる。

 一方ブルックナーでは、ステージ最前列にチェロが1列に並び、2列目と3列目には、下手側に第2ヴァイオリン群、上手側に第1ヴァイオリン群が位置する。そしてその奥に他の楽器群が、各セクションが分解されて配置されるというわけである。全員が正面を向いて並ぶ。半円形になって指揮者を見る、という形ではない。

 こういう配置のオーケストラから響き出す音が、いつも聴き慣れたサウンドとは全く異なって来るのは、いうまでもない。
 今日は1曲目を2階最前列、2曲目を1階席後方で聴いたが、その範囲で単刀直入に言えば━━楽器の定位が明確でない録音を聴いた印象に似ている、ということだろうか。昔、フルトヴェングラーのモノーラル録音を電気的に疑似ステレオ化して話題を呼んだ、あの「ブライトクランク方式」の音を思い出させるのである。
 音の量感はたっぷりと保たれ、オーケストラ全体は混然としながらも一体となり、マッスの力感として響いて来る。内声部の動きは、ナマ演奏であるだけに、楽器によってはブライトクランクよりもずっと明確に聴きとれる。

 一方━━これはブライトクランクとは別個の話だが━━同種の楽器が各所に分散しているために、各パートごとの調和は生まれず、それらの対比も明確にはならない。つまり、スコアそのものが分解されてしまっているのである。ブルックナーの音楽に備わる壮大な量感は保たれているが、彼の音楽に特有な清澄な音色は失われ、時には混濁した巨大な音塊というイメージに陥ることさえある。

 断っておくが、私はこれらを、単に伝統的なオーケストラ・サウンドとは違うから不可ない、などという非難の意味で言っているのではない。その伝統的なオーケストラ配置を分解した手法は、一部の現代音楽では当然のように行われているものだが、その手法を古典派やロマン派の音楽にも適用したかのような前代未聞の試みに接して、今は未だ考え込むだけの段階にとどまっている、というのが正直なところなのである。

 これまでにも、楽器配置を大胆に変更し、新鮮な響きを生み出させることに成功した指揮者の例として、ストコフスキーがいる。だが「響き」は、音楽の重要な要素ではあるものの、あくまでも要素の一つに過ぎない。
 西脇さんがこの試みによって、作曲者の意図から、あるいは作品の性格から何を再創造しようとしているのかは、私には未だよく解らないのだ。だが、いずれにせよその発想の豊かさに、いたく感心させられたことは事実なのである。

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