2019-09

2019・9・1(日)パーヴォ・ヤルヴィ&N響 「フィデリオ」

     Bunkamura オーチャードホール  2時

 パーヴォ・ヤルヴィがNHK交響楽団を指揮して、ベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」を演奏会形式で上演した。これは聴きものとして、早くから話題を呼んでいたプログラムである。

 協演は、新国立劇場合唱団(合唱指揮・冨平恭平)、アドリエンヌ・ピエチョンカ(レオノーレ)、ミヒャル・シャーデ(夫フロレスタン)、フランツ=ヨーゼフ・ゼーリッヒ(牢番ロッコ)、ヴォルフガング・コッホ(刑務所長ドン・ピツァロ)、モイツァ・エルトマン(マルツェリーネ)、大西宇宙(大臣ドン・フェルナンド)、鈴木准(ジャキーノ)といった豪華な顔ぶれ。
 セリフも部分的に取り入れられている。歌手たちはステージ前面に位置し、暗譜で歌い、ドラマの内容を聴衆に理解させるための必要最小限の演技を加えていた。

 顔ぶれもよかったが、聴いてみて、やはり第一に感じたのは━━先日のデュトワと大フィルによる「サロメ」と同様━━演奏会形式オペラの良さ、ということだ。
 舞台に気を取られることなく精神を音楽に集中できる━━とはよく言われることだが、私はそれ以上に、オペラにおけるオーケストラの音楽を存分に堪能できることに魅力を感じるのである。欧米の大歌劇場ならともかく、日本では、ピットの中に入ったオーケストラは貧弱な音になってしまうことが多いのだが(もちろん例外はある)、ステージに乗れば、とにかくフル編成で、オケのパートの緻密さや壮大さを充分に発揮できるからだ。

 今日の「フィデリオ」でも、P・ヤルヴィとN響の強力な、響きのいい演奏のおかげで、ベートーヴェンのオーケストラ・パートの素晴らしさを、余すところなく味わえたのである。たとえば、特に暗い曲想の個所が、ウェーバーやベルリオーズやワーグナーにどれほど大きな影響を与えたか━━つまりこの作品が紛れもなくドイツ・ロマン派オペラの先駆ともなっていることを、改めて強く認識させてくれたのだ。

 パーヴォは、基本的には速いテンポで押し、序曲をはじめいくつかの個所では、さすがのN響も追いつかないくらいの疾風怒濤の演奏をつくった。緊迫感も充分で、とりわけ第1幕後半、ドン・ピツァロが登場して以降の部分は見事なほど劇的な高まりを示していた。
 ただし、第2幕の「大臣到着」の場での、遠方からトランペットが2回響く間の四重唱の個所だけは、パーヴォは劇的な緊迫感よりも、音楽の叙情味の中に没頭してしまったようだった・・・・。

 また今回は「レオノーレ序曲第3番」が、第2幕の前に挿入されていたが、これはドラマの流れの上で、まあ、あってもなくてもいいように感じられた。ただし、演奏はすこぶる立派なものだったが。

 歌手陣。タイトル・ロールのピエチョンカは、後半は声に疲れが出たか、やや硬質な声になったようだが、第1幕のアリアは怒りと正義感とに燃えた圧倒的な歌唱だった━━ここではN響のホルン群が強靭な演奏で彼女の歌を盛り上げた。
 エルトマンの声も美しく、マルツェリーネ役にしては色気があり過ぎるような気配もあったけれども、三重唱などでは清涼な雰囲気を漂わせていた。

 男声陣の方も、ゼーリッヒとコッホは力と滋味にあふれた役者ぶりで、第1幕後半の二重唱を不穏な雰囲気で飾った。シャーデは、獄中のフロレスタンの弱々しさを表現しようとしたのか、変に癖のある歌い方でスタートしたが、やがていつもの伸びのある声を取り戻して行った。
 注目の若手・大西宇宙も安定した歌いぶりだったものの、この大臣役は出番が少ないこともあって、彼の真価を味わうには役不足だったか。鈴木准も同様、このジャキーノという役を歌う歌手は、いつも損な目に遭う。

 なお今回は、いわゆる演出はなかったが、外国人歌手たちはみんな、ドラマの内容をはっきりと解るような身振りを入れてくれた。
 これは、彼らがみんな自分たちで考えてやったのだということである。さすが、歴戦のオペラ歌手たちだ。ちょうど10年前(2009年9月3日)に飯守泰次郎が「ヴァルキューレ」第3幕を演奏会形式で指揮した時、ヴォータンを歌ったラルフ・ルーカスが独自の判断で演技を入れ始めたため、その他の歌手たちがそれに刺激されて、各々が自分で演技を考えて行った(飯守氏談)という例を思い出した。
 その点、今日はジャキーノだけが所在無げで蚊帳の外だったが、これはまあ、役柄の所為もあって仕方がないか。大臣も泰然と構える役なので、これも仕方がない。

 ステージ奥にずらり並んだ新国立劇場合唱団が、兵士や囚人、群衆役で力強い歌唱を聴かせてくれたことにも触れておきたい。

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