2019-08

2019・8・22(木)セイジ・オザワ松本フェスティバル
チャイコフスキー:「エフゲニー・オネーギン」

    まつもと市民芸術館・主ホール  3時

 メイン行事に相応しい規模のオペラ上演としては、2015年の「ベアトリスとベネディクト」以来、実に4年ぶりのものになる。思えば、往にし日々には、小澤征爾が毎年のように意欲的なレパートリーのオペラを繰り出し、われわれも胸を躍らせて松本に参集したものだった。あの時代のフェスティバルの沸き立つ熱気は、凄いものがあったが・・・・。

 この音楽祭でチャイコフスキーのオペラが取り上げられるのは、2007年の小澤征爾の指揮による「スペードの女王」以来である。もちろんこの「エフゲニー・オネーギン」の方も彼は日本で指揮したことがあったが、それはこの音楽祭でではなく、2008年の「東京のオペラの森」においてだった。

 さて、今回の上演の指揮は、ファビオ・ルイージ。
 徹底して抒情的な表現に重点を置いた演奏であった。この作品がもともと「オペラ」でなく「抒情劇」と題されていたことを思えば、ルイージは、まさに作曲者の意図に忠実だったことになる。とはいえ、やはりそれだけでは、作品の弱味をカバーできなくなるだろう。

 その意味で、今日のルイージの指揮は、劇的な迫力を些か欠いた。
 例えば、第2幕でのオネーギンとレンスキーの口論が激して緊張が高まって行く場面、全曲大詰めでの縋るオネーギンと拒否するタチヤーナの息詰まる場面などがそうだ。このような、ドラマティックな追い込みと昂揚が必要な個所では、ルイージの指揮はあまりにサラリとしていて、緊迫度の欠如が感じられ、ドラマティックな起伏の少なさに不満を残したのである。
 ゲルギエフが指揮したMET上演(DVDでも出ている)の演奏が、主人公たちの感情の高まりを見事に描いて迫力を生んでいたのに比べると、その違いはあまりにも大きい。

 ロバート・カーセンの演出は、そのMET上演のプロダクションと基本的に同じものだが、今回はピーター・マクリントックが再演演出を行なったもので、主役陣の演技の細やかさにおいては、あまり徹底されていないようなところも見られる。むしろ、合唱団の方が細かく演技していたようだ━━第2幕、トリケの気障で長たらしい歌にうんざりする男たち、といったように。
 なお今回は、全曲最後でオネーギンが椅子に沈み込み、タチヤーナにあてた手紙を読み返す様子が挿入され、ドラマの幕開きの「オネーギンの回想」場面に戻るという演出になっていた。これはMETの上演には無かった設定だ。だが、今回の手法の方が、ドラマのコンセプトに一貫したものを感じさせるだろう。

 声楽陣は、オネーギンをレヴァント・バキルチ、タチヤーナをアンナ・ネチャエーヴァ、レンスキーをパオロ・ファナーレ、オリガをリンゼイ・アンマン、グレーミン公爵をアレクサンドル・ヴィノグラドフ、ラーリナ夫人をドリス・ランブレヒト、乳母フィリーピエヴナをラリッサ・ジャジコワ(ディアドコーヴァ)、トリケをキース・ジェイムソン、隊長とザレツキーをデイヴィッド・ソアー。合唱が東京オペラシンガーズ━━といった面々。

 この中で、マリウシュ・クヴィエチェンの代役として急遽来日したオネーギン役のバキルチは、まあ、可もなく不可もなし、というところか。演技と歌唱に、もう少し皮肉めいたニヒルな表情が現れていないと、オネーギンという複雑な青年を本質的に描くのは難しいだろう。
 タチヤーナ役のネチャエーヴァは、歌唱、演技ともに手堅い出来。一方、声の豊かさと滋味から言えば、グレーミン公爵役のヴィノグラドフが傑出していたし、またディアドコーヴァが乳母役で出演していたのにも懐かしさを感じさせた。

 だが総じて、今回の顔ぶれは、地味という印象を免れず、中心にだれか1人でも核となる歌手がいれば、もう少し舞台も盛り上がっただろうが━━その点、クヴィエチェンの来日中止は、やはり痛かった。

 ダンサーは東京シティ・バレエ団のメンバー。
 ピットに入っていたのは、矢部達哉をコンサートマスターとするサイトウ・キネン・オーケストラ。演奏の立派さは昔ながらのものだ。小澤征爾が昔のように指揮してくれることが望めなくなった現在、このSKOこそが、フェスティバルの「かなめ」である。

 休憩は1回で、6時15分終演。
     ☞(別稿) 信濃毎日新聞
     ☞(別稿) モーストリー・クラシック11月号 公演Reviews

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