2019-06

2019・6・15(土)ユベール・スダーン指揮東京交響楽団

     サントリーホール  6時

 6月定期。シューマンの「マンフレッド」序曲で開始、次に同じくシューマンの「ピアノ協奏曲」を、ソリストに菊池洋子を迎えて演奏。休憩後はチャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」で盛り上げる。
 コンサートマスターは客演の郷古廉。

 コンサートでの東京響は、快調だ。
 秋山和慶がしっかりとまとめたアンサンブルを土台にして、スダーンが精緻な音楽を構築して演奏水準を目覚ましく引き上げ、そのあとにジョナサン・ノットが大きな花を開かせた━━ともいうべきこの東京響。
 久しぶりに戻って来たスダーンは、その髙い水準に達したこの楽団を、今や楽々と乗りこなしながら自分の音楽を愉しんでいるようにも見える。

 というのは、スダーンの指揮はこのところ、また新たな変貌の時期に入ったようにも感じられるからだ。2000年代の彼は、寸毫の緩みもない、厳格に引き締まった構築の演奏を創って来たが、今はその音楽にもやや余裕を生じさせ、いっそうのふくらみと、大きさと、深みを感じさせるようになって来たような気がするのである。

 それを最初に感じたのは、まず「マンフレッド」序曲の冒頭、弦楽器群の柔らかい、翳りのある壮大な、悲劇的なニュアンスの素晴らしさだった。また、協奏曲でのオーケストラの演奏にも、以前のスダーンの指揮に比べて、さらに伸びやかな歌が加わって来たような気がする。

 そして「マンフレッド交響曲」の演奏には、やはりスダーンらしい突き詰めた厳しさが現われていたが、それでも中間2楽章では、所謂「チャイコフスキー節」が、なかなか雰囲気豊かに再現されていたのである。これまでスダーンの指揮するチャイコフスキーはあまり聴いたことが無かったのだが、今回は、彼もこういうチャイコフスキーをやるんだ、と、彼の芸域の拡がりに何故か安心したというか━━。
 なおスダーンは今回、第4楽章の締め括りに、第1楽章終結部の最強奏による激烈な結尾を転用する版を使った。楽屋で彼は「自分はこれが一番好きだ」と語っていたが、私もナマ演奏で聴く場合には、この方が面白くて好きである。

 菊池洋子がシューマンのコンチェルトを弾くのも、今夜初めて聴いた。彼女の演奏会ではやはりモーツァルトを聴く機会が多いのだが、10年ほど前にOEKとのラヴェルのコンチェルトを聴いたことがあって、これが実に素晴らしくて感服した記憶があるので、他の作曲家のコンチェルトも聴いてみたいなと以前から思っていたところなのである。
 このシューマン、直截ながら精妙で瑞々しく、すこぶる魅力的だった。

2019・6・15(土)フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」

      日生劇場  1時30分

 「NISSAY OPERA 2019」として上演された2日公演の初日。これはこの前後に「中・高校生に本物の舞台に触れる機会を」という狙いによる「ニッセイ名作シリーズ2019」としても上演されており、また10月には名古屋と仙台でも上演される由。

 指揮が角田鋼亮、演出と振付が広崎うらん、舞台美術が二村周作。田中信昭による日本語訳詞で歌われるが、日本語の字幕もつく。
 今日の出演は郷家暁子(ヘンゼル)、小林沙羅(グレーテル)、池田真己(父)、藤井麻美(母)、角田和弘(魔女)、宮地江奈(眠りの精、露の精)、C.ヴィレッジシンガーズ、パピーコーラスクラブ、えびな少年少女合唱団、新日本フィルハーモニー交響楽団、多くのダンサーたち。

 家族向けのオペラ上演としては、よく出来ているだろう。
 ダンスパフォーマンスの広瀬うらんが担当した舞台だけあって、ダンスが活用されるだけでなく、ヘンゼルとグレーテルも、父親も母親も、魔女とその手下の怪物どもも、登場人物全員が実によく踊り、飛び跳ねる。演劇的な要素は希薄だが、賑やかさという点で親しみを狙う、という舞台だ。

 ただしラストシーンは、捻ったわりには、客席はシーンとして、???という雰囲気になってしまった。もしあの美しい精のようなダンサーたちの出現が、音楽が鳴っている間に行なわれていれば、もっと盛り上がったのではないかとも思えるのだが如何に? 
 しかし、お菓子から人間の姿に戻った子供たち(合唱)の演技は、めっぽう可愛かった。

 休憩20分間ほどを含めてちょうど2時間で終ってしまったから、テンポもかなり速い。
 速いこと自体は悪くないが、ホルンの響きは荒々しく、オーケストラ全体もリアルに生々しく、総体的に演奏が素っ気ないことに疑問が残る。つまり、舞台がトラディショナルなメルヘン調のものであるにもかかわらず、演奏には、本来このオペラに備わっているはずのロマンティックでミステリアスな「森」の雰囲気が感じられないのである。

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