2019-06

2019・6・4(火)ヴィオラスペース2019 Vol.28 

     紀尾井ホール  7時

 今井信子の提唱で1992年に始まったヴィオラを基調とする音楽祭「ヴィオラスペース」も第28回を数えるに至っている。立派なものである。今年は5月29日・30日大阪、31日仙台、6月1日・2日・4日・5日東京で、マスタークラスや公開演奏会が開催されるというスケジュールだ。なお2013年からは、プログラム・ディレクターをアントワン・タメスティが務めている。

 演奏会のプログラムに、所謂名曲よりも、現代音楽や秘曲(?)が多く取り上げられているところも意欲的だ。
 今日のプログラムもなかなかユニークで、テーマは「イタリアへ」と題され、漆黒の闇の中でのシャリーノの「夜の果て」の演奏に始まり、ニーノ・ロータの「ゴッドファーザー」、ベリオの「ナチュラーレ」、ヴィヴァルディの「春」、パガニーニの「大ヴィオラと管弦楽のためのソナタ」、ベルリオーズの「イタリアのハロルド」からの第1・2楽章━━と続いて行く。

 演奏者にはヴィオラにタメスティ、セジュン・キム、ガース・ノックス、ルオシャ・ファン、佐々木亮、今井信子ら、錚々たる顔ぶれが揃っているが、ヴィオラ以外の楽器の人たちも大勢登場していることはいうまでもない。桐朋学園オーケストラの若手たちもステージを華やかにしていた。
 作品としては、ヴィオラとパーカッションと歌(スピーカー再生)とで演奏されたベリオの「ナチュラーレ」が、とりわけ面白かった。パガニーニの「ソナタ」は、何ともつまらぬ曲に聞こえてしまったが、これは演奏の所為だろう。ただ、このソナタで、ルシャ・ファンが弾いた大型のヴィオラの音の豊かさには魅了させられる。

 なお、御大・今井信子は、「イタリアのハロルド」の第2楽章でオーケストラの背後からゆっくりと姿を現してソロを弾き、それからやおら前面に出て来て弾く━━といった演出で、大トリを飾っていた。

2019・6・4(火)ロイヤル・オペラハウス・シネマ 「ファウスト」

      日本シネアーツ社試写室  1時

 ロイヤル・オペラハウス(ROH)4月30日上演、グノーの「ファウスト」ライヴ映像。これは、2004年に制作されたデイヴィッド・マクヴィカー演出による、RHO定番のプロダクション。

 今回はダン・エッティンガーが指揮しており、休憩時間中のインタヴュ―では自信満々、という雰囲気だったが、そのわりには並みの出来といった音楽づくりだろう。
 歌手陣はマイケル・ファビアーノ(ファウスト)、アーヴィン・シュロット(メフィストフェレス)、イリーナ・リング(マルグリート)、ステファン・デグー(ヴァランティン)、マルタ・フォンタナレス=シモンズ(ジーベル)。
 この中では、やはりシュロットが、歌唱面と演技面で抜きん出た表現力を示す。女装を含めたさまざまな衣装の早変わりで悪魔の性格の多彩さを描き出すあたりも、見事な役者ぶりであった。

 マクヴィカーの演出は、映像で観る限り、すこぶる豪華で微細なつくりだが、人物の動きなどに少々鈍いところが感じられるのは、再演のため、彼の本来の意図が徹底されていないからではなかろうかと思われる。だが教会の場面での、マルグリートを威嚇し苛むメフィストフェレスと悪霊たちの動きは、なかなか不気味なものだった。

 ラストシーンで、メフィストフェレスが神の威光を笑いつつ地底に姿を消して行くくだりは、ゲーテの原作における終場面をパロディ化したものアイディアかもしれない。またこの場面では、ファウストが再びオペラ冒頭場面のような老人に戻り、上手側に倒れているマルグリート━━それは夢か現か━━を空しく追い求める、という洒落た構図が創られていた。

 一般の上演ではカットされるバレエ場面の「ワルプルギスの場」━━所謂「ファウストのバレエ音楽」である━━も上演されるので、演奏時間も正味3時間4分、休憩21分およびインタヴュ―も含めて上映時間は3時間51分と長くなる。しかしこのバレエ場面に、今回のようにマルグリートの哀しい運命を詳細かつ巧妙に描くストーリーが振付されているとなれば、これはドラマの一要素として極めて重要な意味を持つにいたる、ということがよく理解できるのだ。
 6月14日~20日にTOHOシネマズ系で公開の由。

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