2019-05

2019・5・22(水)第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉
入賞デビューコンサート

     東京オペラシティ コンサートホール  7時

 1967年以来の歴史を持つわが国唯一の大規模な指揮者コンクール。当初は「民音コンクール」という名で、1988年から現在の名称になったが、運営と主催は引き続き「民音」により行われている。
 今日は、昨秋開催された第18回東京国際音楽コンクールの指揮部門で上位入賞した3人━━沖澤のどか〈第1位〉、横山奏(第2位)、熊倉優(第3位)が登場、東京都交響楽団を指揮した。

 演奏前にこのコンクールの審査委員長を1987年(第11回)から務めている外山雄三氏がスピーチ、「いいと思ったら、スタンディング・オヴェーションでも何でも、盛大に拍手をしてやってほしいが、気に入らなかったら、靴音高く出て行っていいとまでは言わぬまでも、無理して(儀礼的な)拍手を送らなくてもいい。それが若い演奏家にとって何よりの勉強になるのだから」と、彼らしい言葉を述べた。

 振り方がどうだとかいう話は、指揮者や専門家にお任せして、私は昨夜の浜松国際ピアノコンクール入賞者の披露演奏会の時と同じく、一人の聴衆として、その演奏に感じたことだけを正直に書く。昨秋のコンクール本選の際の演奏は聴いていないので、あくまで今夜の演奏を聴いた範囲でのことだ。

 最初にチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」を指揮した熊倉優は、極めて丁寧に、念入りに作品を構築して行く。冒頭のアンダンテの個所だけでなく、「愛の主題」の部分をも、徹底して遅いテンポで進める。
 それはそれでいいとしても、その遅いテンポに緊張力が伴っているかどうかは別の問題だろう。この日の指揮では、そこにやや誇張めいたものを感じさせ、結果として全曲のバランスを崩し、聴き手に作品の流れを見失わせかねない危険性をはらんでいたように思う。
 何より、そのテンポから激しい曲想に変わる寸前の矯めの個所(例えば第272小節のヴィオラの全音符)までその緊張が持続できず、それまでの仕上げを瓦解させてしまったのでは何にもなるまい。今後の課題であろう。

 次いで、コダーイの「ハンガリー民謡《孔雀は飛んだ》による変奏曲」を指揮した横山奏(男性である)。強靭な音で野性的な力感を漲らせ、音色も多彩で、持って行き方にも工夫が感じ取れるところがいい。ここではオーケストラも、引き締まった響きを聴かせた。欲を言えば、この山あり谷ありの起伏を持った、終わりそうでいて終らないようなこの曲の構成の問題点をカバーするための一策として、もう少し形式感を巧く導入してくれるようになれば、と思う。

 そして最後に、沖澤のどかが、メンデルスゾーンの「交響曲第3番《スコットランド》」を指揮した。このコンクールで優勝した最初の女性指揮者である。良いとは聞いていたが、予想以上に素晴らしい指揮をするのに感心した。
 全曲冒頭、主題が奏され始めた瞬間、都響の管から引き出された音が絶妙の美しさ(アインザッツは悪かったけれど)を持っていたのには、ハッとさせられたものである。弦からも輝きのある音を引き出し、強いアクセントで豊かなメリハリを持たせ、演奏全体に毅然、凛然とした表情を漲らせていた。若手の割にはそれほど大きくない身振りの指揮でありながら、オーケストラの演奏をかくも躍動させ、燃え上がらせる力量は大したものである。

 終楽章での推進力も、なかなか見事であった。欲を言えば、それが見事だっただけに、全曲冒頭主題が変形して再現される大詰の歓呼の個所に「今一押し」が欲しかったところだが、それはこれからのことであろう。最後の最強奏の和音が終る前からすでに拍手が沸き起こり、演奏が終った時にはホール全体が大拍手とブラヴォーに包まれたのであった。

 ともあれ、今日の演奏を聴いた範囲では、コンクール本選の順位付けには全面的に納得したというところである。だが、本舞台はこれからだ。昨夜と同じく、今日の3人に対しても、「輝かしい未来があらんことを」と祈らずにはいられない。
      →(別稿)モーストリー・クラシック8月号 公演Reviews 

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