2018-07

2018・7・30(月)ミンコフスキ指揮OEK「ペレアスとメリザンド」

      石川県立音楽堂  6時30分

 新千歳空港から2時40分頃フライトのANA1174で、小松空港に4時15分頃着。金沢駅前には5時10分頃に着けたのは幸いだった。投宿先のANAクラウンプラザホテルで一息入れたのち、隣接する県立音楽堂に向かう。やはり、ここも猛暑だ。

 これはオーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演。この秋に芸術監督に就任するマルク・ミンコフスキが指揮、ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」をボルドー歌劇場で上演されたプロダクションで演奏するというのが話題になっていた。

 配役は、ペレアスをスタニスラス・ドゥ・バルベラック、メリザンドをキアラ・スケラート、ゴローをアレクサンドル・ドゥハメル、アルケルをジェローム・ヴァルニエ、ジュヌヴィエーヴをシルヴィ・ブルネ=グルッポーソ、イニョルドをマエリ・ケレ、医師と牧童をジャン=ヴァンサン・ブロ。合唱と助演は、日本勢が担当している。
 演出と舞台装置はフィリップ・ベジアとフローレン・シオー、衣装はクレメンス・ペルノー、照明はニコラ・デスコトー、映像がトマス・イスラエルというスタッフだ。

 東京公演はもう少し簡略化した舞台で上演するらしいが、ここ石川県立音楽堂での上演は、セミ・ステージ形式ではない。私はボルドー歌劇場での公演には接していないので、どの程度共通しているのかは判らないけれども、とにかくきわめて個性的な舞台演出を伴ったオペラ上演である。

 舞台中央に、アビゲイル・ヤングをコンサートマスターとするオーケストラ・アンサンブル金沢が位置する。
 歌手たちは、舞台奥に設置された一段高いステージ(主として城の内部の場面がここで描かれる)と、さらにその上方の高所(城の地下の洞窟の場など)、舞台上手寄り手前に設置されたスペース(森の中の場面、海岸の洞窟、城の庭の泉の場など)、オーケストラの前面(その他の場面)で演技を繰り広げる。

 舞台には助演者も多く登場、侍女たちだけでなく、たとえば嫉妬に狂ったゴローがメリザンドに暴行を加える場面などでは、大勢の助演者たちは恐怖に慄いたり、彼を止めようと必死に試みたりする演技も行なわれる。
 また舞台奥や、舞台手前に設置された紗幕にはさまざまな映像が投影されるが、この手前の紗幕は全部左右に開かれたり、上手側の紗幕のみは中央まで閉じられたりするので、それがまた映像の複合的な効果を生み出し、すこぶる幻想的な美しさをつくり出していたのである。

 舞台は概して暗く、遠方の席からは目を凝らして視なければならない。しかしそのヴェールのかかったような舞台群が、この物語の極度に謎めいた、論理的には説明し難いような内容と、見事に重ね合わされていたことは確かであろう。その中に、中央に位置するオーケストラの譜面台の灯が放つ赤色系の光が、周囲との不思議な対比をなしているのだった。
 なお、投映されるデフォルメされた森の木々、暗い海、人物の顔といった映像の数々や、助演者が手で開け閉めする前面の紗幕などには多くの意味が込められていることが理解できるが、それらについてはもう少し綿密に考えてみる必要がありそうである。

 歌手たちは、全員が素晴らしい。
 メリザンドは、歌詞の内容とは裏腹に、歌唱はどちらかと言えばリアルで、明確で強い意志を備えた女性といった表現だが、これは指揮者の注文か、それとも演出家の意図か。そういえば、登場人物のほぼ全員が明晰な人物像を表現して、舞台にドラマティックな、緊迫した構図を生み出していたことも特徴だったといえよう。

 その劇的な緊迫感を、音楽でつくり出していたのが、マルク・ミンコフスキである。所謂「フランス印象派」の幻想的とか夢幻的とかいったイメージだけにこだわることなく、要所では音楽を激しく昂揚させ、たとえば第3幕でゴローが息子イニョルドに命じてペレアスとメリザンドの部屋を覗き見させる場面などでは、歌とオーケストラとをこの上なく荒々しく強調していた。
 しかし一方、叙情的な場面も鮮やかで、特に第1幕冒頭、あるいは第5幕などは、まさにこの世のものとは思えぬほどの美しさをつくり出していたのだった。
 彼の指揮に応えて、このような演奏をしたOEKも見事というほかはない。ミンコフスキとOEK、いい組み合わせと思われる。
 力作の企画は、大成功であった。

 なお、演出家のノート(プログラム冊子掲載)をあとで読んでみたら、今回は珍しくもドビュッシーの「創作時のオリジナル版」を使用する━━つまり「舞台転換のために間奏曲を長いものに書き換える以前の稿」を演奏する、とあった。私も実はうっかりしていたのだが(このへんが、トシを無視して強行軍で転戦したことの悪影響である)この詳細については、東京公演でもう一度確認してみたい。

 休憩は1回、第3幕のあとにおかれた。演奏が終った時には、場内は拍手もまばらで、金沢のお客さんはどうなっているんだろうと心配になったが、全曲が終ってからの拍手とブラヴォーはひときわ盛んで、大いに盛り上がっていたのには安心した。
 ちなみに正面2階席の下手の方に、歌手の1人ずつに対し、声をからしてブラヴォーを叫び続けている人がいたが、ミンコフスキが指揮台上にあったスコアを胸の前で掲げてみせた時には、感激をこらえ切れぬような口調で、何と「ドビュッシー、ありがとう!」と叫んだのであった。随分、純粋な方だと畏敬するが、横で聞いていると、何となく照れてしまう。

 休憩1回(20分)を含め、終演は9時45分頃になった。
   別稿 モーストリー・クラシック11月号 公演Reviews

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