2018-07

2018・7・19(木)東京二期会 ウェーバー:「魔弾の射手」2日目

       東京文化会館大ホール  2時

 大和悠河(悪魔ザミエル)とナオミ・ザイラー(ヴィオラ奏者・悪魔)は昨日と同じだが、その他の主演歌手たちは、今日は小貫岩夫(マックス)、北村さおり(アガーテ)、熊田アルベルト彩乃(エンヒェン)、加藤宏隆(カスパール)、伊藤純(クーノー)、藪内俊弥(オットカール)、小鉄和広(隠者)、杉浦隆太(キリアン)という顔ぶれ。

 昨日、散々不満を述べたセリフ回しに関しては、今日も全く同じであった。特に女声歌手2人の、それも特にエンヒェンの甲高い声と間延びしたテンポによる不自然なセリフ発声には、いくら何でももう少し普通に喋れないのか、いつまでこんな時代遅れのスタイルを続けているのか、と言いたくなる。第3幕では、聴いているのがもう苦痛にさえなったほどだ。

 しかしこれは、昨日も書いたことだが、コンヴィチュニーから要求されたセリフのテンポから生じた悪癖━━ということもあるかもしれない。彼女たち以外にも、女性の声でのセリフ(効果音的セリフも含む)にも、同じようなことが言えたからだ。
 男声歌手陣のセリフに関しては、昨日よりも自然な度合いが増して、聞きやすくなっていた。

 いずれにせよ、原語の歌唱と日本語のセリフを組み合わせる上演は、最近だんだん増えて来ているし、これからもっと増えるかもしれない。日本語のセリフ回しまで管理しようという外人演出家が他にいるとは思えないが、もし今回のようなケースだった場合には、日本語のセリフ部分に関しては、共同演出として、同等にものが言える日本の優れた演出家を起用していただきたいものである。

 セリフ回しに関しては、不本意ながら酷評してしまったが、しかし歌唱に関する限りは、エンヒェンもアガーテも、今日は大いに気を吐いていたのである。
 第2幕での2人のそれぞれの歌は美しかったし、特にエンヒェン役の熊田アルベルト彩乃は軽快な声の裡にも力強い張りが感じられ、今後に多大な期待を抱かせる。ただし2人とも、第3幕ではなぜか歌唱が少し粗くなってしまった。

 アレホ・ペレスの指揮と読響の演奏、二期会合唱団に関しては、昨日に同じ。この指揮者はなかなかいい。

 演出はもちろん、ほぼ昨日と同様である。
 第1幕での、農夫キリアンと村人たちによるマックス揶揄の場面は活気があって面白いし、第2幕の「狼谷の場」は、メカニックな舞台装置を駆使していたのが成功していた。ただ、第1幕最後の「カスパルのアリア」を場面転換として使ったことは、この歌の悪魔的効果を弱める結果となっていたように思われる。

 悪魔ザミエルを演じる大和悠河は、昨日と同様に華麗な舞台姿を見せ、1階最前方に席を取ったヅカ・ファンらしいグループの拍手や歓声を浴びていた。彼女のような「舞台の華」ともいうべき存在感の創り方は、オペラ歌手たちにも、もっと真似してもらってもいいのではなかろうか? 
 ただし、「狩人の合唱」の前での一連の彼女のセリフ展開のうち、「ラ・ラ・ラ」と繰り返す意味が、あれでは少々解り難い。むしろハンブルク演出版と同じように、それが「狩人の合唱」の歌詞「ヨッホ・トララララ」をもじったものであることをもっと明確に打ち出した方が、お客さんにも解り易くなって、受けたのではないだろうか。

 一方、全曲大詰の幕切れは、「悪魔ザミエル」と「隠者」とが名刺交換をしてビジネスの交流をはかるというオチの場面が昨日よりは明確に出ていて、コンヴィチュニーの狙いがよく解るようになっていただろう。

 終演後には、演出家によるアフタートークが行なわれ、1階席には結構な数の客が残って、蔵原順子さんの明快な通訳に助けられながら、彼の話に聞き入った。
 話の内容は、大体先日のドイツ文化センターにおけるプレトーク(6月27日の項)のそれと基本的に同じものだったが、彼の話はいつもポイントが少しずつあちこち移動して行くので、多少ニュアンスが異なるものに聞こえて来る。

 だが、「神の不在の時代に人々はどう生きるべきか、がこの演出の隠されたテーマである」という説明や、第3幕のエンヒェンの「ロマンツェとアリア」でオブリガートを奏するヴィオラ奏者を舞台に上げ、悪魔の分身としての役割を担わせたこと(ハンブルク州立劇場管弦楽団首席のナオミ・ザイラーが、演奏だけでなく、凝った演技をも見せた)の説明などは、集まったお客さんの理解を深めたであろう。
 客席から登場して「ストーリーを強引にひっくり返し」てしまう「隠者」は、喩えて言えばオペラ好きの大スポンサーのような存在であり、資本主義の世の中を風刺したものである、という説明には、客席にも微かなざわめきが拡がったほどである。

 終了直前、最前列の客から、「ドイツとオペラについてどう思うか」などという今日のテーマから外れた質問が出て、進行が停滞したため、早くも見切りをつけた退席者が増え始めたが、ホスト役の多田羅廸夫さん(今回の公演監督)が巧くまとめた。
 コン様の意気に溢れる回答もカッコよかったが、そのあと多田羅さんが「日本のオペラをも盛り上げようではありませんか」と強引に話を切り替え、いつのまにか二期会のPRに持って行ってしまったのには、場内も爆笑と大拍手。さすが公演監督、さながら「隠者」の仕切りの如し。かくして6時閉会。

 東京の「魔弾の射手」は、未だあと2回の上演があるが、私はここまで。次は西宮で明日に初日を迎える「佐渡裕プロデュースオペラ」の「魔弾の射手」である。このオペラ、本当にいい曲だ。
     (別稿)モーストリー・クラシック10月号 公演Reviews

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