2017-05

2017・5・6(土)ヴェルディ:「アイーダ」

     オリンパスホール八王子  3時

 八王子市が市制100周年を記念して主催上演した「アイーダ」。
 川瀬賢太郎が指揮する東京交響楽団の演奏(コンサートマスターはグレブ・ニキティン)、岩田達宗の演出。
 出演は、アイーダを小林厚子、ラダメスを村上敏明、アムネリスを福原寿美枝、アモナズロを森口賢二、ランフィスを大塚博章、エジプト国王を泉良平、使者を澤崎一了、巫女の長を山口佳子。八王子祝祭合唱団、児童合唱団「こんぺいとうの空」、バレエシャンブルウェスト。

 オーケストラを舞台上に載せた、所謂「セミ・ステージ形式上演」ではあったものの、衣装(緒方規矩子、半田悦子)に持道具、照明演出(大島祐夫)、背景映像の演出(増田寿子)などもちゃんと整えられ、しかもバレエ(今村博明・川口ゆり子振付)もあるという、いたれりつくせりの上演である。衣装には「八王子織物」も使われている由。

 そういえば、岩田達宗は以前(2015年1月18日)、札幌のKitaraで、北海道二期会の「アイーダ」をセミ・ステージ形式で見事につくり上げたことがある。今回もそのスタイルで展開されたわけだが、しかし登場人物の描き方は、今回の方が格段に解り易く明晰になっていた。
 オケの前方(舞台手前)のエプロンステージと、オケの後方に高く設置された舞台(緞帳付き)とを対比させる形で登場人物を動かす。バレエの一部は客席にも拡がる。エジプト軍の大行進まではもちろん無いが、舞台奥で群衆(合唱団)が手を振ってそれを暗示する。アイーダ・トランペット群もバルコン客席の両側に出て来るという、なかなか大がかりなものだ。

 演出は、岩田達宗らしく凝っている。
 高僧ランフィスを無情な支配者として捉えず、尋問の場面でも何とかラダメスを救おうと手を尽くす人物に仕立てたのも面白い(その演技はちょっとオーバーだったが)。
 第2幕の大アンサンブルの個所では、メロディ・ラインで主導権を持つアイーダを舞台前面に立たせ、音楽の隈取りをはっきりさせたのも、音楽の構造を考えた読みの深い手法だ。もちろんそこには、後方舞台上の「エジプト」から疎外されている存在という意味も含まれているだろう。エチオピア王アモナズロも前方に居り、またラダメスも当然、二つの場を行ったり来たりする。

 ラストシーンでアイーダとラダメスを後方舞台に置いたのはともかく、「彼らの墓の上でその冥福を祈る」はずのアムネリスをエプロンに出て来させた時には違和感を抱いたが、しかしすぐ、演出者岩田がプログラムのエッセイの中で、アムネリスが歌う最後の歌詞「Pace t’imploro,pace,pace,pace!(とこしえに平安あれ)」の中に含まれる「平和」という意味に着目し、平和の祈りを八王子から世界に発信したい━━と書いていたのを思い出して、なるほどと思った。
 事実、最後に背景舞台が暗黒になり、ただ独り指揮者の前方中央に立った彼女が「Pace!」と歌い結び、字幕(岩田自身)がそれに合わせて最後に「平和を」と変わって行ったのは、すこぶる印象的ではあった。ドラマのストーリーからして、アムネリスが「平和を」と言える立場なのかどうかには、疑問の余地もないでもないが、それはまあ措くとしよう。

 川瀬が東京響を率いて、なかなか丁寧な指揮をした。彼の指揮の個性からして豪壮華麗なグランドオペラというイメージではないけれども、繊細な美しさがあり、第1幕前奏曲など、なんと声部の交錯をきれいに描き出すのだろうと舌を巻いたものである。
 ただ、第1幕ではそれがあまりにも几帳面な音楽づくりになり、劇的な表情の変化に不足し、音楽がちっとも情熱的にならないので、もどかしさも感じさせたのである。例えば「清きアイーダ」で、ラダメスの感情が次第に昂揚して行くあたり━━村上敏明は見事にその表情を出していた━━では、それがオーケストラのテンポや表情の中にも反映されなければならないだろう。
 幸い、第2幕からは雰囲気が変わり、演奏に伸び伸びとしたものが加わったので、その後はかなりドラマティックな面白さも生れて行った。

 そして今回は、大多数の歌手陣がすこぶる充実していた。
 村上敏明は充分と言っていいほどのラダメス将軍だった。福原寿美枝は「怖い役」を演ったら日本でこの人の右に出る人はいないと思うし、期待通り「怒れる王女アムネリス」として素晴らしい力の入った(入り過ぎた?)歌唱を披露した。
 小林厚子は、たいへん豊かな声の持主だから、胸のすくような絶唱を聴かせてくれるが、さらに弱音がうまく行けば文句ないところだろう。
 森口賢二も第3幕の聴かせどころでは激情的なアモナズロを歌い、大塚博章も「面倒見の良い」ランフィスを巧く歌ってくれた。

 この日のために練習を積んだ合唱団も健闘した。尋問の場面における審問官役の少数の男声合唱は、やはりもう少し凄味と力が欲しいところだったが、それでもよくやった方だろう。

 チケットは完売とか。客がよく入っていた。1幕ごとに休憩を入れたので、終演は7時になった。
 この八王子オリンパスホールは、JR八王子駅南口に直結していて、非常に便利である。椅子の大きさに余裕があり、楽なのも有難い。

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