2009-06

6・26(金)チョン・ミョンフン指揮東京フィルハーモニー交響楽団
ヴェルディ: 歌劇「椿姫」(演奏会形式上演)

   サントリーホール

 事前の広報資料やプログラムには「椿姫より」となっていたので、聴きどころだけの抜粋かと思っていたら、慣習的な省略個所はあるものの、事実上の全曲演奏だった。

 チョン・ミョンフンは、全体に速めのテンポで、しかも歯切れよく小気味よいリズムで追い上げる。引き締まった演奏だ。
 オーケストラから劇的な表現を引き出す手法においても、チョンはすこぶる細かい。ヴィオレッタを支える音楽は常に優しく流麗に、またジェルモンやアルフレードの怒りを描く個所では弦に極めて鋭いスタッカートを奏させるといったように。これらは既にスコアに書かれているものだが、その通りに対比させて演奏しない指揮者も、少なからずいるのである。

 東京フィルも、バランスが良くしっとりとした、しかもふくよかな音色でチョンの指揮に応えていた。こういう演奏を新国立劇場のピットでも聴かせてくれていれば、文句ないのだが――。
 先日のヴェルディの「レクィエム」といい、ブラームス〜シェーンベルク編の「ピアノ四重奏曲第1番」といい、東京フィルは、チョン・ミョンフンの指揮の下では、とにかく並外れて見事な演奏をする。

 今回の「椿姫」公演は3回。前日に東京オペラシティで演奏したばかり。
 その疲れのせいなのかどうかわからないが、2人の主役――マリア・ルイジア・ボルシ(ヴィオレッタ)とダニール・シドーダ(アルフレード)が、何となく精彩を欠いていたのではないか?
 それでもボルシの方はたいへん柔らかく美しい声で、ジェルモンとのやり取りの個所などでは見事なカンタービレを聴かせていた。が、シトーダの方には、以前マリインスキー・オペラで歌ったレンスキー役の時のような声の張りや伸びが、今回はほとんど聴かれなかった。
 しかも、2人とも歌詞があまり明瞭に聞き取れないきらいがある。それゆえ、余計オーケストラに声が埋没したような印象を生み、もどかしさを感じさせたのかもしれない。

 が、この中に父親ジェルモン役のワシーリー・ゲレロが登場すると、途端に伸びのある声と比較的明晰な歌詞の発音とが響きはじめ、音楽が引き締まって来る。
 共演はフローラに渡辺玲美、ガストーネ子爵に二階谷洋介、お手伝いアンニーナに松浦麗、医師グランヴィルにタン・ジュンボ、ほか。主役2人より、これら脇役陣の方が歯切れのいい歌唱だったようにさえ思えたほどだ。
 なお、前日も聴いたという2,3の方の意見では、主役歌手の出来は前日の方が格段に良かったとのことであった。
 合唱は新国立劇場合唱団。
  「音楽の友」8月号(7月18日発売)演奏会評

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