2008-05

5・27(火)クリストフ・エッシェンバッハ指揮フィラデルフィア管弦楽団

  サントリーホール

 チューニングの時からすでに「いい音だ」と感じさせるオーケストラなど、そう多くはないだろう。フィラデルフィア管弦楽団の美音は、見事なほどに健在である。輝かしく艶っぽく、膨らみがあり、余情もある。
 これほどいい音のオーケストラならいつまでも聴いていたいとさえ思うほどだが、音がいいということは、女性にたとえてみれば絶世の美女みたいなものだから、内容がカラッポであればすぐ飽きるかもしれぬ。こういうオーケストラは、ピリオド楽器的奏法など巧くできるのかしら?

 しかし、今日の演奏は立派だった。ブリテンの「ヴァイオリン協奏曲」でも、シューベルトの「ザ・グレイト」でも、力強い低音の上に柔らかい音色が輝かしく拡がる。この低音は、やはりエッシェンバッハの好みなのだろう。コントラバスのピチカートがこれほど美しく響くオーケストラも稀だろう。
 エッシェンバッハの指揮についてはあれこれ風評もあるし、現実にこれまで聴いて心を打たれたことはなかったが、少なくともこの日の2曲に関しては、オーケストラの実力と合わせて非凡な音楽のつくりになっていた。そうした音を引き出した彼の功績も認めるべきである。ほんの一つのフレーズの扱いにも、双方の呼吸が合っていなければ不可能な特徴が感じられるし、壮大な起伏と、細部に置ける生き生きした躍動、多彩な音色の変化も実に魅力的であった。

 ヴァイオリン協奏曲は、五嶋みどりが恐るべき緊迫感を以て弾き切った。第2楽章での長いカデンツァでも、音楽は一瞬の緩みもない。これだけ「楽器を弾ける」ヴァイオリニストは他にもいるかもしれないが、音楽そのものに輝かしさと凄愴感とを併せ持たせる音楽家は、なかなかいないものである。しかも、そのソロを、エッシェンバッハが実に巧くサポートする。オーケストラを豪壮かつ劇的に鳴らしたかと思うと、さっと身を翻すように後退してソロを前面に押し出す、その呼吸もまた見事なものだった。

 アンコールは、一風変ったアレンジの「ピチカート・ポルカ」と、これまた実に豪壮な「雷鳴と電光」。大太鼓を含む低音部構築の巧さがここでも目立つ。どんな秘密があるのか?
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