2008-03

3・15(土)旅行日記第1日
ザルツブルク・イースター音楽祭「ワルキューレ」

  ザルツブルク祝祭大劇場

 前日夕方、ザルツブルクに入る。今年の復活祭は、時期が早い。
 第1チクルスは、ワーグナーの「ワルキューレ」で開幕した。この「ワルキューレ」は、エクサン・プロヴァンス音楽祭との共同制作で、昨年7月に現地で一度観ている(2007年7月8日)。ステファーヌ・ブラウンシュヴァイクの演出は、私にとってはさほど魅力的ではないが、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルのワーグナーにはこのところ興味津々たるものがあり、それに成り行きも関係して、かく参上した次第。

 そのラトルとベルリン・フィルの演奏だが、エクサン・プロヴァンスでの演奏よりもいっそう巧みさを増したように感じられる。最も目立つのは、音楽のニュアンスがきわめて精妙になったことだろう。
 たとえば第1幕で、ジークムントがジークリンデの差し出した角盃から蜜酒を飲む場面でチェロが演奏するモティーフの表情の、何と豊かなこと! ラトルはここで、短いクレッシェンドのあとのスフォルツァンドをひときわ強調し、男と女の間に突然いっそう強い感情が起こるさまを見事に描く。このあたりはブラウンシュヴァイクの演出もストレートなので、ワーグナーが音楽で語ろうとした魔園がはっきりと聴き手に伝わってくるだろう(最近流行の滅茶苦茶な演出では、こういう音楽の魅力が生かされぬ恐れがある)。
 また第2幕の「死の告知」の場面で、ブリュンヒルデが「ヴォータンの娘たちがあなたを迎えるでしょう」と語る瞬間に音楽が何とも言えぬエロティックな響きに変わるくだりなどでも、ラトルとベルリン・フィルの表情はさらに恍惚の度を増していた。
 その他、第1幕大詰めの音楽や、第3幕の「ヴォータンの告別」のクライマックス部分にも、昨年の演奏で感嘆させられたような特徴が示されていた。

 ただ今回は残念なことに、こちらの当った席が1階25列という「屋根の下」で、ここは前方の席に比べ、音が硬く荒々しく聞こえる癖がある。そのためベルリン・フィルの演奏も「巨巌のごとき逞しさ」という印象になったが、このあたりがホールで聴くナマ演奏の複雑なところだろう。
 以前にもこのザルツブルク祝祭大劇場で、1階席中央で聴いた私が豊麗で柔らかいと感じた演奏を、2階で聴いた知人たちは「ケバ立って硬い音だった」と評したことがあるほどなのだ。

 歌手の顔ぶれなどは、昨年のエクサン・プロヴァンスと同一なので、省く。

 ブラウンシュヴァイクの演出は・・・・エクサン・プロヴァンスの項で、この程度のものを高い金を払ってわざわざ観に来たのかおれは、とぼやいてしまった舞台。
 それでも今回、少しは改善されたかと淡い期待も抱いていたのだが、やはりほとんど変わっていなかったように思う。
 それに、見せ場のラストシーンで炎が投影される壁面は、エクサン・プロヴァンスでは、最後までたしか3方を囲む形、つまり舞台全体を囲む形ではなかったろうか? 私も記憶に自信がないのだが・・・・。しかし今回はなぜか壁の両側が途中から奥へ引っ込んで行き、舞台両側3分の1ずつが暗くなり(しかも舞台裏側が見えるような中途半端さで)、炎は正面の壁だけに、それもか細く投影されるに縮まってしまった。いかに景気の悪い炎とはいえ、横長の舞台全面に拡がっていれば、まだ見栄えもしたであろうに。
 それまでは各幕の終りで直ちに爆発していたブラヴォーの声も、この第3幕のあとにはすぐに起こらず、ただ静かな拍手が始まっただけであった。拍子抜けしたのは私だけでなく、他のお客さんも同じだったようだ。

 次の「ジークフリート」は、来年4月4日と13日の上演で、タイトルロールはベン・ヘップナー、ブリュンヒルデはヨハンソンでなく(!)カタリーナ・ダライマンが歌うと予告されている。
 ちなみに、2010年の「神々の黄昏」(3月27日、4月5日)の配役も発表されており、ヘップナーとダライマンが引き続き歌う他、ハーゲンには今回フンディングを渋く歌ったミハイル・ペトレンコが登場する。ワルトラウテにアンネ・ソフィー・フォン・オッターが起用されるところなど、いかにもラトル好みであろう。

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