2008-02

2・17(日)大植英次指揮大阪フィル東京公演

  サントリーホール

 大植英次の新境地、というよりは、彼と大阪フィルの新境地、と書くべきだろう。この日の演奏は、これまで聴いた彼らの演奏とは随分違っていた。

 その最大のものは、音色である。特にラヴェルの「道化師の朝の歌」とベルリオーズの「幻想交響曲」で彼らが披露した音色は明るく輝かしく、それも滑らかに彫琢された音というよりは、粒立ちの強い、全ての楽器があいまいに妥協せずに自らの存在を主張できるというオーケストラの好ましい姿を実現できるような演奏になっていたのである。
 これは、もしかしたらサントリーホールの2階席中央で聴く音の癖との相乗効果による印象かもしれない。が、いかにあの席とはいえ、すべてのオーケストラがそういう音で聞こえるわけではないから、これはやはり大植と大阪フィルが、このフランスの2つの作品で狙ったものが成功を収めたのだと考えてもいいだろう。
 
 音色以外にも、響きにふくらみが感じられ、それが空間的な壮大さを生み出していたのが印象的であった。「道化師の朝の歌」最初の部分での、最弱奏から最強奏への突然の変化にも、決してわざとらしい怒号はなく、きわめて自然な解放感があふれていた。全体に遅いテンポで構築された「幻想交響曲」でも、同様である。
 アンコールで演奏されたエルガーの「エニグマ変奏曲」の中の「ニムロッド」での軽やかで柔らかく、神秘的なほどの弱音の美しさは、それらを集大成した名演といってもよく、かつてテミルカーノフとサンクトペテルブルク・フィルがこのホールで聴かせた演奏をさえ凌ぐといっていいほどであった。
 
 大植英次と大阪フィルの演奏は、これまでにもしばしば聴いてきたが、何か彼らの個性が掴みきれない、もどかしいところが多々あった。指揮者がオーケストラを自分の楽器に仕立て上げるのには長い時間がかかるということは、いろいろな例を見れば明らかだが、大植と大阪フィルも、やっとそのような時代に入ってきたのかもしれない。もちろんこれは、他のレパートリーをも聴いた上でないと、軽々しく断定はできないものだけれども。だがとにかく今日の演奏には、このコンビの今後に対して胸の躍るような期待をもたせるものが感じられたのであった。

 この2曲の間には、小曽根真がソロを弾くガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」が聴衆の人気を集めた。この人の音色もまた、きらきらと輝くように美しい。これだけ爽やかな音色で、しかも一瞬の緩みも感じさせずにピアノを演奏する人は、クラシック系のピアニストの中にさえいないかもしれない。例のごとく自由な即興のソロを随所に含み、演奏時間も普通のものより格段に長くなっていたが、それもおそらく作曲者ガーシュウィンが心に描いていたものだろうと思わせるほどの説得力と、楽しさにあふれていた。
  産経新聞(2月24日)演奏会評

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