2007-09

9・2(日)チューリヒ歌劇場来日公演
 R・シュトラウス:楽劇「ばらの騎士」

 オーチャードホール

 最近日の出の勢いにあるニーナ・ステンメは、やや神経質そうに見える元帥夫人=マルシャリンを歌い演じ、絶好調のヴェッセリーナ・カサロヴァは表情豊かなオクタヴィアンを絶妙に演じる。アルフレッド・ムフのオックス男爵は実に好人物で憎めず、マリン・ハルテリウスのゾフィーは純真である。
 いずれもDVDでも出ているチューリヒ上演のプロダクションと同一の配役による優れた主役陣。これらの名手たちが、完璧に呼吸の合った歌唱と演技を展開するのだから、最良の舞台ができあがるのも当然だろう。

 特にカサロヴァの存在感はすばらしい。このオペラの中心人物はマルシャリンであるというイメージもあるが、かのシュワルツコップくらいの気品を備えたソプラノならそれもあり得るだろう。だがステンメには気の毒だが、今回の舞台は完全にカサロヴァによって支配されていた。それはまさに、このオペラのタイトル「ばらの騎士」どおりだったのである。
 そういえばカサロヴァ、ザルツブルクの「ベンヴェヌート・チェルリーニ」をキャンセルした理由は腰痛だとか何とか現地で発表されていたが、東京での舞台では、そんな気配を全く感じさせなかった。いろいろ裏の事情もあるのだろう。
 
 フランツ・ウェルザー=メストは、本当にすばらしい指揮者になった。1992年にロンドン・フィルと初来日したとき、この人は一見地味だが悪くないぞ、と思ったものだが、その後の成長は予想以上に著しい。オペラ指揮者としての力量が日本で示されたのは今回が最初だが、これ一つで彼の人気は不動のものとなるだろう。

 ともあれこの日は、チューリヒ歌劇場管弦楽団の見事な演奏とあいまって、R・シュトラウスの音楽の豊麗さは余すところなく浮き彫りにされたのであった。冒頭のホルンは決して大きな音量ではないが欣然としており、テノール歌手役の歌を受けて豊満に歌い上げるセンスもしゃれている。終幕の三重唱と二重唱にいたっては、オーケストラの甘美な響きとともに、これぞシュトラウス節というべき聴かせどころを存分に発揮させた。この作品でこれだけ音楽そのものを堪能させてくれたのは、かつてのカルロス・クライバーが指揮した公演以来かもしれない。

 ロルフ・グリテンベルクによる比較的簡素な、不思議に透明感のある舞台装置もチューリヒ上演そのまま。スヴェン=エリック・ベヒトルフの演出は、様式感とリアリズムをミックスさせたタイプといったらいいか。愛の葛藤がさり気ないタッチで描かれていく手法は、この舞台装置の雰囲気と実によく合致している。チューリヒ歌劇場は、その初来日公演を評判どおりの卓越した水準の上演で飾った。
「グランド・オペラ」2007Autumn

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