2008-05

5・7(水)また旅行のためお休み

 また旅行のため、1週間ばかりアップロードを休みます。
 今回はウィーン国立歌劇場の新制作「ジークフリート」、ベルリンのバレンボイム・コンサートなどの取材が主眼。
 旅行日記のアップロードは16日頃をメドとしておりますが、例の如くまた少し遅れるかもしれません。
 なお、以前「モーストリークラシック」に5年間ほど連載、終ってから評判が良くなった(?)「評論家日記」は、6月発売号から新装復活していただけることになったそうです。このブログと併せて読んでいただければうれしいです。

5・5(月)新国立劇場 新制作 ツィンマーマン:「軍人たち」

  新国立劇場

 若杉弘芸術監督が面目を賭けた、ベルント・アロイス・ツィンマーマンの「軍人たち」がついにハウス・プレミエされた。ドレスデン・オペラのオリジナル制作にもとづくネーデルランド・オペラ版からのレンタル上演だが、これはきわめて価値ある日本初演である。
 脇役の日本人歌手陣をはじめ、合唱団がよくあそこまでやったものだ。演技というよりは舞踊といった方が当っているかもしれないが、演出に人を得ればこれだけの水準の舞台が創れるのだということが、ここでも立証されたといえよう。

 その演出はウィリー・デッカー、再演演出がマイシェル・バルバラ・フンメル。舞台美術と衣装がヴォルフガング・グスマン、照明がフリーデヴァルト・デーゲン。
 舞台幅一杯に長方形の箱型内舞台が、やや高い位置に設定されている。
 軍人たちはすべてスキンヘッドで赤服という画一的な姿。彼らを含め登場人物は全員が白塗りの顔。大道具は他に無く、小道具もほとんど無い。巨大な箱の中で繰り広げられる人物たちのマリオネットのような動きは、実に強烈かつ精妙だ。
 ただその一方、たとえばラストシーンでPAにより拡大された軍靴の響きや喧騒といったものに象徴される生々しい人間の「業」のようなものが、著しく抽象化されてしまった印象は否めまい。したがって、物語が持つリアルなどぎつさには不足する。もっともこれはあくまで演出スタイルの選択肢だから、あれこれ言ったところで、所詮は好みの問題になろう。しかしこのような舞台は、時にやや単調に感じられることがある。

 主役陣は、娼婦に身を持ち崩すマリーをヴィクトリア・ルキアネッツが体当たり的に熱演。彼女を愛するシュトルツィウスを歌ったクラウディオ・オテッリが、今回は予想外に良かった。デポルトのピーター・ホーレも安定している。その他脇役たちと合唱(新国立劇場合唱団)も、音楽的にも演技的にも優れたものを示していた。
 東京フィルは若杉の指揮の下で今回は珍しく豪快に鳴り渡った。金管がのべつ唸り、咆哮するようなこの曲では、アンサンブルもクソもないといった感じだが、とりあえずパワーは讃えておこう。これらをまとめた若杉の力量も、長年にわたりオペラに情熱を燃やしてきた彼の本領と言うべく、見事なものであった。

 やたら高音域の声を使い、四六時中絶叫しているという感じのドイツ現代オペラ特有の嫌らしさには辟易するけれど、重量感充分のあざとい個性を持つ「軍人たち」。このオペラをナマで聴けたことはうれしかった。
   

5・4(日)東京歌劇団「ムツェンスク郡のマクベス夫人」

  サンパール荒川大ホール

 新しいオペラ・カンパニーの旗揚げ公演にこのような作品の、しかもロシア語上演を選ぶとは大変な意欲だ。舞台の雰囲気からして手作り上演という印象だが、誕生したばかりの赤児にしては歯が強い。
 珠川秀夫指揮、大島尚志演出・美術・衣装。オーケストラは東京歌劇団管弦楽団(主力はダスビ、つまりショスタコーヴィチの作品に打ち込んでいるアマオケの「オーケストラ・ダスビダーニャ」の由)。2日連続のダブル・キャストで、私が観たのは初日の菊地美奈(カテリーナ)、羽山晃生(セルゲイ)、田辺とおる(ボリス)らの組。適度に過激な演出も取り入れて・・・・。
   「モーストリークラシック」7月号(5月20日発売)
      原文は雑誌発売後にアップロード予定

5・3(土)「ラ・フォル・ジュルネ」 本名徹次指揮ベトナム国立交響楽団

  東京国際フォーラム hall A

 恒例となったラ・フォル・ジュルネ(「熱狂の日」音楽祭)2008、今年のテーマは「シューベルトとウィーン」。
 昼頃までは昨日同様、雨に祟られたが、東京国際フォーラムでの人出はまずまずの様子、慶賀祝着の至りだ。日頃クラシックのコンサートになど億劫で来られないというような親子連れが、それほどポピュラーでもない作品の演奏に耳を傾けている光景はすばらしい。まだの方は、一度行ってごらんになるといい。6日まで開催されている。演奏会以外にもいろいろ面白い催し物もあるし、食べるものもある。
 とはいうものの、私自身はあの雑踏と賑やかさはどうも苦手で、歩いているだけでヘトヘトになるので、今回もチラリと覗くだけである。聴きに入った演奏会は、わずかにこれ一つ。

 5千人を呑み込む巨大なホールAに、3千人か3千5百人くらいはお客さんが入っていたろうか。しかし、それだけでもめでたい話だ。2階席の高みからは、オーケストラのメンバーも、音楽監督の本名さんも、豆粒のように見える。PAが入っており、2階席では音がふんわりとした感じで聞こえるが、この音質はなかなか良好である。
 前半に演奏されたシューベルトの「交響曲第5番」が格段に美しい。後半はモーツァルトの「交響曲第40番」だったが、こういう場所での演奏の場合、何もリピートをすべて延々と行なわなくてもいいのではないかという気もする。このオーケストラの真価を、一度本拠のハノイのホールで体験してみたいと思っているのだが、まだその機を得ない。

5・2(金)ヨハネス・ヴィルトナー指揮フィルハーモニア台湾

  横浜みなとみらいホール

 「(台湾)国家交響楽団」の名称は今でも生きているらしいが、国外向けには2年前から「フィルハーモニア台湾」を使うようになっている。PMFでもおなじみのチェン・ウェンピンは、現在は首席客演指揮者。このポストにはもう一人、アーティスティック・アドヴァイザーを兼ねるギュンター・ヘルビッヒ(!)がいる。

 このオーケストラ、基本的にはきわめて優れた団体のように感じられる。木管群のバランスの良さ、弱音における弦楽器群の柔らかいふくよかな音色などに関しては、東洋のオーケストラとしては出色のものだろう。特に弦は、「ザ・グレイト」(シューベルト)第4楽章第2主題での伴奏音型などで秘めやかな美しさを発揮していた。
 とはいえ(1階席で聴く範囲では)フォルテ以上の大きさになった時の第1ヴァイオリンの音が異様に大きくて鋭く、全体の音色の均衡を失わせる傾向があるのだけは気になる。前半のベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」(ソロは胡乃元=フー・ナイユアン)でのように節度を保った響きの場合には、そのようなことはない。

 今回は客演だったヴィルトナーは、この2曲のあと、おそろしくハイな調子のスピーチをやり、アンコールとしてベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番を指揮。いかにも練習不足を感じさせる散漫な演奏だったが、1番フルートがやたら上手く、あの華麗なソロ・パートを聴かせるのが目的でこれを取り上げたのではないかと思わせるほどで、そのあとはオケも俄然盛り上がった。しかし、最後の土壇場でのティンパニの大ポカはいただけない。同じ種の事故は、フルトヴェングラー指揮ストックホルム・フィルでの前例もあるが、不思議だ。

5・1(木)日本演奏連盟クラシックフェスティバル

  東京文化会館大ホール

 日本演奏連盟が主催するこのシリーズ、今年が第20回記念ということで、「スペシャル・ガラ・シリーズ」が開催された。客席はまさに超満員である。
 新日本フィルと東響のメンバーを中心に東フィルと日本フィルも加わった「フェスティバル・オーケストラ」を飯森範親が指揮。彼は司会も兼ねた。
 「フィガロの結婚」序曲で始まった後は、高木綾子と吉野直子がモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」第1楽章を、清水和音が「皇帝」第1楽章を、堀米ゆず子が「スペイン交響曲」第5楽章を、高橋薫子が「椿姫」のアリアを、大谷康子がサン=サーンスの「ヴァイオリン協奏曲第3番」第3楽章を、堤剛がドヴォルジャークの「チェロ協奏曲」第1楽章を、中村紘子がチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」第1楽章を演奏。コンサートは休憩を含めておよそ2時間半に及んだが、まあ、お祭の場向けの演奏水準といったところか。

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