2017-08

2017・8・7(月)ザルツブルク音楽祭(6)ハーゲン・クァルテット

     モーツァルテウム大ホール  7時30分

 ハーゲン・クァルテットなんて、高い金をかけてザルツブルクまで行かなくても、東京でだっていつでも聴けるじゃないか━━という見方もあろうが、そこはそれ、空気の違いが大きい。つまり、楽器の「鳴り」が、湿度の高い日本とは全く違うのだ。

 日本で聴き慣れたハーゲン・クァルテットが、まるで別の団体のように聞こえると言ったら誇張が過ぎようが、とにかくルーカス、ヴェロニカ、クレメンスのハーゲン3人に、ライナー・シュミットを加えた4人のそれぞれの演奏が、驚異的なほど瑞々しい表情の語り口を以って、ステージから響いて来るのである。

 プログラムもいい。最初にバッハの「フーガの技法」からの「コントラプンクトゥスⅠ-Ⅳ」が置かれ、次にショスタコーヴィチの「弦楽四重奏曲第8番」がある、というプログラムを見た時に、オヤこれはもしや・・・・と思ったのだが、案の定、この2つの作品はアタッカで演奏された。つまり、バッハの曲が突然前衛的な動きをし始めたように感じた瞬間に、曲はいつの間にかショスタコーヴィチの作品に変わっていた、ということになるのだ。
 この接続は、あまりに見事な効果を生んでいて、なるほどと思わされたくらいである。200年を隔てた二つの作品がかくも違和感なく結合していたこと━━これには、深い感動を覚える。

 もちろん、演奏も凄まじい。世界の終りを物語るような、神秘的で緊迫感に満ちた演奏で開始された「フーガの技法」━━しかしその弦の動きのしなやかで陶酔的な美しさ、パウゼでの息を呑む緊張感。そして、まるでそれに触発されたように蠢きはじめるショスタコーヴィチのラルゴの曲想。
 後者は、しばしば聞かれるようなヒステリックな表情の音楽でも、刺々しい闘争的な音楽でもない。バッハをそのまま受け継いだかのような、厚い声部の交錯が、一種の柔らかいヒューマンな温かさを感じさせつつ続いて行く、といった感なのだ。

 前半のこの2曲の印象があまりに強烈なものだったために、お目当てだった後半のシューベルトの「弦楽五重奏曲ハ長調」が、多少影が薄くなってしまったきらいは、なくもない。極度に沈潜した演奏だった第1楽章のあと、まるで長い緊張に耐え切れなくなったような雰囲気が、客席にも拡がった。

 だがもちろん、チェロのソル・ガベッタが加わったこの豪華な演奏は、聴きものであった。
 真髄は第2楽章か。弦の移り変わるハーモニーと、ガベッタがゆっくりと奏するピッツィカートとが絶妙に呼吸を合わせるさまは、今更感言うのは何だけれど、やはり巧いものだな、とつくづく感心させられる。1時間にわたる長い全曲の最後に突然出現する暗い和音の揺れは━━ここはもっと不気味であっていいといつも思うのだが、今日もさほど深刻にならぬ程度のまま、終った。

 9時30分終演。聴衆も最後には熱狂して、スタンディング・オヴェイションとなったが、このホールは終演後の客の出口への動線が最悪なので、なるべく早く廊下に近づこうという魂胆が感じられなくもない。
 今日は1日中、快晴の爽やかな気候で、まさにこれぞザルツブルク、といった空気である。まだ暑くならない午前中、ザルツァッハ河畔の木陰のベンチに腰を下ろし、澄んだ空気を味わいながら本を読む。最高の気分だ。

コメント

空気の違い

>空気の違いによる、楽器の鳴りの違い
ハーゲン・クァルテットに限ったことではない様に思いますが、、、

お疲れ様です。大阪いずみホールで、ハーゲン・クァルテットを拝聴したのが6月29日。大阪はとりわけ湿度が高い梅雨時でした。楽器の「鳴り」って、それほど違うのですね。この時期に来日される奏者の皆様は、とても神経遣われてるのでしょうね。

文脈からは

その楽団を日本とヨーロッパで実際に聴き比べての意見だから、文脈からして、目くじらを立てるようなことはないように思う。
逆に、一般論で、「日本とヨーロッパでは、楽器の鳴りが違う」と書かれると、説得力に欠けるように思う。

また、プロが日本公演で手を抜いているとは思わないが、ザルツブルクでの公演は、普段以上の緊張、気合い、意気込みがあってもおかしくないと思う。

別に目くじらなど立ててはおりませんぬ(そういう意味ではない)ので、念のため補足

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